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#0073『誤発弾』ユ・ヒョンモク監督 1960年韓国

誤発弾
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監督:ユ・ヒョンモク
原作:イ・ボムソン
出演:キム・ジンギュ/チェ・ムリョン
   ムン・ジョンスク/ユン・イル・ボン

ネタバレです。ご注意ください。

久々に新しい記事をひとつ。以前から気になっていた『誤発弾』をようやく観た。1960年に製作されたこの作品は、韓国を代表する二つの新聞で歴代韓国映画No.1に選ばれている。すでに、ネガフィルムは失われてしまったそうで、英語字幕を焼き付けたポジから起こしたVHSで鑑賞。画像がかなり劣化してしまっているのが残念。

”誤発弾”の意味について作品中に特に説明は無いが、最後のタクシー運転手の会話から推測すると、狙いも無く誤って発射された弾・のように目的もなにも無く彷徨っている様(人)を言うらしい。本作をご存知の方はそう多くないと思われるので、いつもよりストーリー紹介を多めにしながら感想を記したい。

朝鮮戦争終戦まもなくの韓国。主人公のソン・チョルホは、「解放村」と呼ばれるスラム街に住み、町の小さな会計事務所で書記として働いている。彼の薄給を頼るのは年老いてボケてしまった母、妊娠中の妻、娘、2人の弟と妹が一人。母はすでに正気を失い「行こう」「行こう」とうなされ続けている。

ちなみに、母のうわごとは日本語字幕では「行こう」だが、英語字幕は「get out of here」となっており、「出て行こう」もしくは「逃げ出そう」と言っているらしい。おそらく、老婆は戦争の悲惨な体験で精神をわずらい、その恐ろしさから逃れようとしてうなされているのだろう。しかし、解放村の自宅のシーンで常に聞こえてくる母のこのセリフは、貧しいスラム、ひいてはチョルホたちがその中でもがき苦しんでいる、逃れることのできない日常生活という現実の過酷さを連想させる。。

底なし沼のような貧困生活に加え、チョルホを苦しめるのは歯痛。痛みに悩まされながら治療にも行かないのは、治療代にも事欠くためか、それとも痛む歯を治療することさえ厭うほど無気力になってしまったせいなのか。どちらにしても、母の声とチョルホの歯痛は、彼を取り巻く現実の絶望的な厳しさをくっきりと観客に印象付ける。

それでも彼は、抜け殻のように黙々と仕事をして給料袋を妻に運んでいる。無言で給料袋を受け取る妻も、たった一言ねぎらうだけの心のゆとりを無くしてしまうほど擦り切れてしまっている。「行こう」「行こう」と手を伸ばす義母を見つめる無表情な妻の顔が痛々しい。まだ小さな娘のヘオクだけは実に屈託がなく、新しい靴やスカートを欲しがり伯父(ヨンホ)に会うたびにねだっている。まことに子どもらしいかわいい姿なのだが、家の中があまりにすさんでいるため、かえって悲惨さを引き立てる役回りになってしまっている。

弟のヨンホは戦争から戻っても定職にも着かず、軍隊仲間やガールフレンドの映画女優ミリと遊び歩いている。これが現実逃避であることは一目瞭然。家族のためにいやでも現実に向き合わなければいけないチョルホと違い、一人身のヨンホはそれから目をそらして軽佻浮薄な愉しみのみを求め歩いている。そして、それが彼の悲劇の源となる。

ヨンホが身を滅ぼすきっかけとなる事件が二つ発生する。

ヨンホは戦時中の上官で両足を負傷したキョンシクを尊敬していて、彼はヨンホの妹ミョンスクと相愛の中にあった。しかし、戦争によって生きる目的を見失ってしまったキョンシクは、ミョンスクとの関係を再開させることが出来ず、彼の態度に絶望したミョンスクは米兵相手の娼婦に身を堕とす。警察に検挙されたミョンスクの身柄を受け取りに行ったチョルホだが、妹になんの言葉をかけることも無く、引き取りの手続きだけして自分は仕事に戻ってしまう。ミョンスクが娼婦になったことを知ったヨンホはキョンシクを激しく非難し、キョンシクは「死を望むものには行くあてなどない」と言い残して街を去っていく。

また、同じ頃ヨンホは、戦時中に知り合いすぐに離れ離れになってしまっていた元従軍看護婦のオ・ソリと偶然再会し恋に落ちる。オ・ソリはビルの屋上の広い部屋に住んでいる。その屋上には”天国の番人”とあだ名される門番の老人が転寝をしている。彼女の部屋でまさに天国のようなひと時を過ごしたヨンホは翌日の再開を約束して家に帰る。翌日約束どおりオ・ソリを訪れたヨンホだが、天国の番人に彼女は死んだと告げられる。昨夜ヨンホが帰った直後、オ・ソリの隣人で彼女にしつこく言い寄っていた青年詩人が彼女とヨンホの関係に嫉妬し、彼女を道連れに屋上から飛び降りてしまっていた。

ヨンホの中で何かが切れてしまった。日々擦り切れるように働く兄、なのに生活は少しも良くならない。途絶えることの無い母の「出て行こう」「逃げ出そう」の声。それでも、まじめに暮らすよう力なく説教するチョルホに対して、ヨンホは、夢も希望も報いもない”まじめな生活”にもっと早く見切りをつけておけば、オ・ソリが死ぬことも妹が娼婦になることもなかった・・・と叫ぶ。 貧困の泥沼にあえぎ、脱出する気力もなくしてしまったチョルホの説教には何の説得力もない。しかし、現実逃避を続けてきたヨンホの、力ずくで現実を打破するという主張にも、やはり訴えかけるものは何もない。

しかし、やりきれない思いにとらわれたヨンホは、オ・ソリが護身用に持っていた拳銃を握り、軍隊仲間とともに銀行を襲撃する。まとまった金を奪い銀行から逃走したヨンホだが、彼の言動を心配して駆けつけたミリが警察に協力したことにより犯行後わずか10分で逮捕される。一足飛びに現実から逃れようとしたヨンホは、まんまと現実に絡めとられ、社会から抹殺されてしまった。面会に来たチョルホは、「大勢見物する中で絞首刑にしてくれ」とつぶやく弟にかける言葉も無い。

警察署を後にして家に帰ったチョルホは、ミョンスクから姉がつわりに苦しみ病院に担ぎ込まれたことを聞かされる。ミョンスクから金をもらい病院に向かうが、到着したときにはすでに病室はもぬけの殻。妻は1時間前に難産の末死亡していた。妹は娼婦になり、弟は逮捕され、妻は死んだ。ふらふらと街に出たチョルホにやり場のない怒りが湧いてくる。「良心と言う垣根の中で、なぜこんなに苦しまなければ行けないんだ。お前が正しければもう今頃金持ちになっていた・・・」。しかし、彼の怒りは、彼を取り巻く現実にはなんの影響も与えることはできない。チョルホは思い立ったように歯科医院に立ち寄り、痛む親知らずを抜く。「よく、我慢できましたねえ・・・・」と歯科医が言う。今のチョルホにとってこれほど残酷な言葉は無いかもしれない。確かに彼は家族のために、日常生活を営むために、我慢に我慢を重ねてきた。しかし、我慢すれば我慢するほど彼を取り巻く現実は悪化する。

出血で失神するからと、歯医者は一本しか抜歯しないが、彼は別の歯科医を訪れ痛む歯を全部抜いてしまう。出血により朦朧とする意識で彼は町をさ迷い歩く。「どこかに行かなければいけない。でも、どこに行けばいいんだ・・」。フラフラとタクシーに乗り込んだチョルホは解放村や病院を行き先に告げては変更し、結局ヨンホが拘置されている警察署に向かう。警察署の前に着いたタクシーの中で、唇の両端から血を垂らし、意識を失うチョルホ。タクシーの運転手は「迷い弾(誤発弾)のような、厄介な客を拾ったもんだ・・・」と悪態をつく。

全編に異様な虚無感が流れる作品で、知らず知らずの間に肩に力が入っていました。

しかし、この物語の主人公は、文字通り生きるか死ぬかのところで苦しんでいるのではありません。餓死と背中合わせに暮らしているのではありません。曲がりなりにもチョルホは給料をもらい、家族は毎日ご飯を食べ、ヘオクは子どもらしく遊んで暮らしています。

彼らが襲われているものの正体はなんなのでしょう。戦争の結果、自分たちの住む国という環境が荒廃してしまった不安定感、その中でいくら努力してもこれっぽっちも生活が向上しない徒労感、そして将来に向けてどのような希望も抱くことが出来ない不安感。そういうものが生活に充満し、その中で毎日をあても無く、何十年も生きていかなければいけない。

それが人間にとっていかに苦痛となるかは、今までにもいろんな映画や文学作品で語られてきたことだと思いますがこの作品ではその悲惨な現実の描写が特に見事でした。その中に留まるものも、そこからはみ出そうとするものも生かしてはおかない、日常というか現実が禍々しく可視化されていたと思います。

ちなみに、韓国はこんなに素晴らしい映画を作った歴史があるのに、なぜ・・・・などというのは、いかにも余計な話でございます。ともあれ『誤発弾』は噂どおりの名作でありました。★★★★★

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