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#0093『羅生門』黒澤明監督 1950年日本

羅生門

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お久しぶりでございます。ちょっと更新の間が開いてしまいました。。。

妖気漂う『蜘蛛巣城』『雨月物語』に惹かれて、行き着いた作品が黒澤明監督の『羅生門』。観てから一ヶ月以上もたってしまいましたが・・・。


山中で武士金沢武弘(森雅之)が変死していた事件に関して、捕らえられた盗人多襄丸(三船敏郎)は、山中で出会った武弘とその妻真砂(京マチ子)を騙し真砂を強姦、決闘となった武弘を悠々切り捨てたと証言する。

ところがその後、検非違使庁に出廷した真砂の証言はまったくこれと異なっていた。彼女は、多襄丸が立ち去った後、犯された自分を蔑む武弘の視線に耐え切れず、短刀で自害しようとしたが気を失った、気がついたときには武弘に短刀が突き刺さり絶命していたと述べ、池に身を投げようとしたが死に切れなかったと嘆き悲しむ。

さらに、霊媒師の口を借りて武弘自身が語る真相は、このどちらとも異なっていた。真砂は、妻になれと迫る多襄丸の誘いに艶然と応じ、その前に夫を殺してくれと頼んだ。多襄丸は真砂のあまりに冷酷な言葉に興ざめし、これを殺すか否かを武弘に問うが、真砂は隙を突いて逃げ出してしまう。一人取り残された武弘は、あまりの絶望のため自ら命を絶ったという。


芥川龍之介の原作「藪の中」で語られるのはここまで。事件を発見した杣売(志村喬)と、武弘・真砂の二人連れを目撃した旅法師(千秋実)、及び多襄丸を捕らえた放免の尋問が行われた後、上記3名の証言が続き、食い違った証言内容をそのまま放り出した形で話は終わってしまいます(→原作参照)。

原作の幕切れは取り付く島もないほどあっけなく、作者の意図や事件の真相は読者の解釈にゆだねられており、それゆえに様々な解釈論が飛び交ってるわけです。それが、原作の素晴らしさでもあります。しかし、黒澤監督は『羅生門』を製作するにあたり、原作よりはるかに明確な”作者の意図”を盛り込んでいるようです。

「人間の心の底に潜むエゴイズムは醜悪無残である。しかもなお、人間は、人間の善意を信じないでは生きていくことはできない。その心の戦いを、この映画は描かんとするものである。」(都築政昭著「黒澤明一作一生全三十作品」より)

そして、黒澤監督の意図に従い、映画『羅生門』には原作「藪の中」に登場しない、杣売(志村喬)による第四の証言が追加されることになりました。この証言内容の位置取りが絶妙。


杣売は、事件と係わり合いになることを恐れて一度は「何も見ていない」と証言したものの、実は事件の一部始終を目撃していた。しかし、その後の成り行きに人の心が信じられなくなり、雨宿りをする羅生門の下で、居合わせた旅法師(千秋実)と下人(上田吉二郎)に目撃した内容を語り出した。曰く・・・、

事に及んだ後で、多襄丸は真砂に土下座して謝っていた。心惹かれたからこその暴挙であり、ぜひ自分の妻になって欲しいと懇願している。真砂は女の口からは何も言えないと拒否するが、暗に主人武弘を殺して自分を奪い去るよう多襄丸を仕向ける 。しかし、縄を解かれた武弘は、他の男に犯された女などに命を賭けるつもりはないから、欲しくばくれてやると言い放つ。

このままでは二人の男に恥を見せた真砂の立場はなくなってしまう。真砂は口汚く男たちをなじりだす。やがて、彼女に煽られた男たちは憑りつかれたように闘い始める。しかし、双方ともに勇猛さの微塵もなく、腰も抜けんばかりの怯えた闘いようであった。多襄丸はやっとの思いで無様に命乞いする武弘に止めを刺す。しかし、決着を見届け、自らも錯乱気味となった真砂は、多襄丸の手も振り払い森の中へ逃げていってしまった。


原作では三つどもえとなって決着のしようもない三人の証言。杣売の証言が加わったことにより、それとの対比で、三人が隠そうとしたものが炙り出されます。

奇しくも羅生門の下人が「人間は自分にとって都合の良い嘘を真実だと信じ込みたがる」と言ったとおり。

事実を曲げた証言により、多襄丸は己の臆病さを隠して勇猛さを、真砂はずるがしこさを隠して貞淑さを、武弘は酷薄さを隠して潔さを最大限誇張しようとしていたことがわかります。

しかし黒沢監督の制作意図を実現するにはもう一工夫必要。それは、果たして杣売の証言は真実なのか、という疑問が残るからですね。彼の話を信じて、それを中心に全体を眺めると上記のような位置づけになりますが、彼も自分に都合のいいような嘘をついているのかもしれません。

「醜悪無残なエゴイズムで、自分に都合の良い嘘を真実だと信じ込む人間の性」を前提としているのですから、いかにして杣売の証言が真実であると証明するのか、これは結構難しい。

そもそも、羅生門で雨宿りする三人の関係は、絶対善の旅法師、絶対悪の下人、善悪の間を揺れ動く杣売という関係になっています。旅法師にとっては、心の支えを失ってしまうほどに狼狽する武弘殺害事件の経緯も、下人にとっては、どこにでも転がっている面白くもない話。その二人の中間に位置するのが杣売で、善も働けば悪も働く一番人間らしい存在。その杣売が最後に善の心に傾くか悪の心に傾くかで彼の話の真偽も決まるという様相となります。

そこに挿入される、同じく芥川原作の「羅生門」のエピソード(かなり趣を変えてありますが)が効いてますねぇ。羅生門に捨てられていた赤ん坊の衣服を、無慈悲にも剥ぎとろうとする下人。その悪党ぶりを激しく非難する杣売。しかし、実は武弘殺害の現場から真砂の短剣を盗んでいたことを下人に見抜かれて言葉もなく立ち尽くします。

杣売は、下人に衣服を剥ぎ取られて肌着だけとなった赤ん坊を自分の子どもとして育てようと決心します。旅法師に感謝されつつ雨上がりの羅生門から立ち去る杣売の姿。

このわずかなシーンにより、杣売の証言の信憑性をゆるぎないものにし、その結果として三人(多襄丸、真砂、武弘)の証言の醜悪さを暴きだす。同時に、ラストシーンの杣売の姿を通して、人間の善意を観客の心に刻みつける。まあ、見事ですよね。オリジナル原作ならともかく、完成された名作短編にこれだけ解釈を加えることができるとは、恐れ入るばかりです。また、映画ってこれヴィヴィッドに物語を伝えることができるのだと改めて感心することしきり。

この作品、そればかりではなく、もちろん独創的な映像も満載(冒頭の羅生門のセットは圧巻、人物と影の使い方は秀逸)、加えて主役級の役者たちの演技も素晴らしい。特に京マチ子は、それこそ魔物でもついているんじゃないかと思えるほどの名演技でした。そのあたりのことは、他に解説してくださっている素晴らしいブログがたくさんあります。

世界の黒澤恐るべし。★★★★★

ちょいと、このごろ、感想書けない病が深刻ですが、まああせらず急がずゆるゆると行きたいと思います。邦画特集のはずでしたが、しばらく気ままに観たい映画を観るということで。。。
まあ、そういうこともあるさ^^;


<スタッフ&キャスト>
監督:黒澤明 / 製作:箕浦甚吾
企画:本木荘二郎 / 原作:芥川龍之介「藪の中」
脚本:黒澤明、橋本忍 / 撮影:宮川一夫
美術松山崇 / 音楽:早坂文雄
装置:松本春造
出演:三船敏郎/京マチ子/志村喬
    森雅之/千秋実/本間文子
    上田吉二郎/加東大介

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オカピーさん、こんばんは!

TBの件、いつもお手数かけます。
できるだけ幅広く見ようとしているのですが、なぜか縁の薄い監督さんがいて、ベルイマンはそのひとりで、『処女の泉』も観てないのですよ。オカピーさん、グリーンベイさんがそろって引き合いに出されるほどですから興味津々。しかし、なかなか入手ハードル高いですな。。
いつも、出不精ですみません。それでは、早速お邪魔いたします。

トラックバックできないので

URL欄に記事URLを忍ばせておきました。
FROSTさんのほうからは是非TBなさってください。前回の「椿三十郎」も併せてどうぞ。<(_ _)>

黒澤映画については色々なところで言い尽されている感があるので、僕などが今更何をか言わんやの感がありますが、敢えて本作の弱点など指摘しております。
素晴らしい作品ですが、減点することにしました。

グリーンベイさんに先を越されてしまいましたが、「処女の泉」は撮影も「羅生門」を彷彿としますよ。
ベルイマンは光と影を凄く意識して映画を作りますね。監督と撮影監督(グンナール・フィッシャー、スヴェン・ニクヴィスト)は黒澤監督と宮川一夫の関係に似ていると思ったり。

感じる人は感じるんですね。

カカトさん

書けない病ですよねぇ(笑)。今本業でも文章を書かなきゃいけないタイミングなんですが、伝染しないことを祈ってます。
そうですか、カカトさんもついに30代ですね。30代になったら、きっと黒澤作品見ても大丈夫ですよ。来年、誕生日とともにこの『羅生門』ぜひ観てください。ある意味映像は恐ろしい(人間の本性むき出しに写している)ですが、映画を見る目はきっと変わりますよ。私は40代後半にして変わりました・笑。(30、30ってすみません。私から見たら全然若くてうらやましい・笑)

同じく書けない病

お久しぶりです。
実は(と言うほどの事でも無いですが)、私は黒澤映画って観た事ないんです。なんか怖くて・笑
映像の怖さもあるのですが、観ると価値観が変わるようなショックを受けそうで怖いのです。
保守派な30歳(来年)のカカトです。

グリーンベイさん

いつもありがとうございます。グリーンベイさんの博識ぶりにはいつも驚かされます。私はまだクラシック作品の鑑賞数が少ないので、作品どうしの関連や影響を楽しむ境地にはいたらんのです。もっとたくさん観なきゃなぁと、つくづく。映像がまたすばらしい作品でしたが、黒澤映画ナンバー1の評価もうなづけます。個人的には今までみた邦画の中で最高の一本でした。

 FROSTさん・・・今晩は。
うーーーん。ある意味では黒澤の最高傑作「羅生門」(50)・・・。冒頭の羅生門のセット、黒澤ならではの重厚さが良い・・・柱の太さ、それを受ける礎石の重量感・・・人間との鮮やかな対比・・・感心するばかりである。
何時もながらFROST
さんの解説は微にいり細にいり完璧ですね・・・。
映画少年は・・・山中の木漏れ日の中を行く場面が、後の「処女の泉」(60)のそれを思い出すのです。キットこの羅生門の影響をベルイマンは受けているものと思うのですね。マックス・フオン・シドーが三人の悪党を殺す部屋のセットなども黒澤の映画を見ている錯覚さえ覚える・・・。娘が教会へ向かう馬上のショットと京マチ子嬢が馬に乗って引かれて木漏れ日の中を行くショットは本当にそっくりなんですね・・・。こんな事を思う作品ではあった・・・。
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