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#0114『にんじん』ジュリアン・デュヴィヴィエ監督 1932年フランス

にんじん
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新作記事アップにもう少し時間がかかるため、もう一本転載記事をお届け。2006年8月の記事でデュヴィヴィエ監督の『にんじん』。記事冒頭に『望郷』の話が出ていますが、ペペル・モコの破滅も実にうまく描かれていました。フランス人監督の中でも当時の日本で特に人気があった人です。


以下、転載文


例のごとく暗転していくにんじん(ロベール・リナン)の運命は実に丁寧に描かれている(今回は初めからかなり暗めだが)。

前回レビューした「望郷」と同じく、さまざまな出来事が積み重なってにんじん少年を自殺へと駆り立てていくくだりは、デュヴィヴィエ監督さすがの演出。特に、一度父(アリ・ボール)との交流が芽生えて立ち直ったかに見えたにんじんが父の選挙パティーで再び孤独感を深めていくシーン。にんじんの身なりを見て笑う子供、飴をくれないおばさん、パーティーの混雑でにんじんをドンと突き飛ばさしていく男、忙しいから少し待っていろと言う父親などひとつひとつはどうということもないきっかけが積もり積もっていく様子が計算されつくしたように描かれる。

開巻15分くらいでルピック家の様子が説明されるが、にんじんの家庭がうまくいっていないことはこの時点から明らか。まだ年端もいかない少年が「家族とは、共感しあえないものが同じ屋根の下で暮らすところ」と言ってはばからない。にんじんは父のことをルピック氏、母(カトリーヌ・フォントネ)のことを奥さんと呼ぶ。

父は全く無口で無関心。母はそんな夫の様子にいつもわめきちらし、特ににんじん少年に対してだけ辛く当たる、長男長女は自分のことしか考えず、末のにんじんはそんな家族の中で顔色を伺いながら生活している。

唯一の理解者は、家族ではなく、新しく雇われた女中アネット。何くれとなくにんじん少年を気にかけ、勇気付けてくれるが、これはにんじん少年をめぐる環境改善には全く役立たない。逆に彼女の存在が母親の意地悪さの引き立て役という感じ。加えて、叔父さんの娘マチルド(コレット・セガル)の可憐さと彼女との結婚ごっこが微笑ましいが、これもやはりにんじんの不幸な家庭環境を強烈に引き立てており、デュヴィヴィエ監督の執拗さに思わず感心してしまう。にほんブログ村 映画ブログへ

にんじんをいじめる母親も、実は愛情に飢えている。夫から愛されなくなった腹いせがにんじんに向かっているというところらしい。馬車のシーンでにんじんの肩にやさしく手をかけようとする母親と、それを払いのけて馬車を暴走させるにんじん。母親もにんじんに優しくしたい(しなければいけない?)という思いは皆無ではないらしい。が、すでにそんな思いも通じないほどにんじんとの間の溝は大きい。

父と息子が家族について語り合うシーンで、父はにんじん少年に「家族には和合と理解が必要だ」と諭す。にんじん少年の「家族は愛し合うべきではないのか?」という質問にも「もちろんだ」と答えるが、だからといって母親ともう一度理解しあうよう努力しようとはさらさら考えていない。「かあさんもかわいそうな女だ」というのみで、母親に関してはなんの解決も与えられず、父と息子の相互理解と息子の救済(一時の?)のみが描かれている。

現実問題で考えても、一度切れてしまった家族の絆がそう簡単に元通りになるわけもなく、そういう意味ではきわめて現実的なシーンだと言えるが、「家族とは、共感しあえないものが同じ屋根の下で暮らすところ」という冒頭で述べられた状況は、少なくとも母親に関する限り何も変わらない。一人ぼっちだったにんじんに父親と言う理解者ができたが、結局母親とは対立していくだけで問題はその後も続くにちがいない。

これが”リアル”ということなのだろうなぁと納得してみるのだが、見かけハッピーエンドのようで全く心が晴れ晴れとしない。そのあたりもまんまと監督の術中にはまっているということなのだろうか。★★★★☆

<スタッフ&キャスト>
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
原作:ジュール・ルナール
脚本:ジュリアン・デュヴィヴィエ
撮影:アルマン・ティラール/ティラール・モンニオ
音楽:アレクサンドル・タシスマン
出演:ロベール・リナン
    アリ・ボール
    カトリーヌ・フォントネ
    コレット・セガル

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