
” PROXIMA SALIDA”
多少、ネタバレ気味。”絶対内容は知りたくない!”という方は、読まないほうが無難と思います。
友達から聞いていた『今夜、列車は走る』、ようやく観る事ができました。いい映画でしたね。現在の映画を少し斜めに見がちな私でしたが、(当然のことながら)こういう良い作品もたくさん作られているんですね。とはいえ、こういう作品の公開にメジャー配給会社が見向きもしないのは残念なことですが。日本公開を実現して下さったスタッフの皆さんに感謝感謝。
映画は、夜土砂降りの中を三人の少年少女が走る場面から始まります。映画のスクリーンに夜と雨って、なんでこんなに似合うんでしょうね。情感を盛り上げてくれるオープニングは傑作の必須条件でもあります。
バックから流れてくる少年のせりふ「運命は変えられるのか・・・?」。
舞台は、1990年代のアルゼンチン。当時のアルゼンチンは国力が衰退し、財政赤字削減のために様々な産業で民営化が押し進められました。150年近い歴史を持つ鉄道もその対象で、車両や線路の老朽化ということもあり、続々と民営化を断行。セイフティネットもないままに約8万人の鉄道マンたちが失業に追いやられたといいます。
この映画の主人公は、5人の元鉄道マンたち。仕事を持つ妻と娘がいるカルロス(ダリオ・グランディネッティ)は40代前半くらい。喘息の幼い息子を持つダニエル(パブロ・ラゴ)は30歳そこそこ。家族持ちはこの二人で、あとは独身者。定年を間近に控えた68歳のブラウリオ(ウリセス・ドゥモント)、親分肌で気のいい娼婦カルメンと30年来付き合っている53歳のゴメス(アティリオ)、同じく独身のアティリオ(バンド・ビリャメル)はおそらく40代後半。彼らは、突然誇りある鉄道マンという仕事を失くしてしまい、それぞれの“その後”を送ります。
いち早く状況に適応し、知人の有力者の紹介でタクシー運転手の職を得るアティリオや、病気がちな幼い息子や妻とのやりとりから徐々に現実を直視し、名付け親を頼ってスーパーのガードマンになるダニエルなどがいる一方で、最年長のブラウリオは最後まで自主退職に応じず、整備工場に住み着いて会社側への抵抗を続けます。
一番印象的なのはカルロスとゴメス。二人とも仕事を見つけることができませんが、カルロスは希望の見えない再就職の苦労の中で、自分の人生について深く内省していきます。「これだけコケにされるのは、俺たちに何か悪いところがあったんじゃないのか」。自分や自分の家族を守るために、本当に考え正しい行動をしてきたのか、もっとやるべきことがあったのではないか。彼のつぶやきは、この映画の重要なメッセージのひとつ。何かをしなければいけない。しかし、本当に自分のやるべきことを見つけることができない彼は、水漏れのするトイレの配管を黙々と修理し始めます。
ゴメスと老娼婦カルメンのシーンはとても印象的。「いつも金持ちになるというのが口癖だったが、もう無理だ。。」というゴメスが置いた金を、カルメンは気づかれないように彼のポケットに戻します。しかしゴメスは、おそらく人に助けてもらうのが不得意な男だったのでしょう。その後、「金がないのに会うわけにいかない」と、カルメンからの電話にも出ようとしません。失業という危機に対して孤軍奮闘するゴメスは、街頭のサンドイッチマンのようなその場しのぎの仕事しか見つけることができず、ついに悲惨な末路を迎えます。
彼らが失ったものは、”仕事”だけではなくて人生の生きがい。自分が自分であることの誇り。家族をはじめとする人間関係における自分という存在の在り場所。
突然、本当に大切なものを失くした主人公達の行動は、あきらめるもの、戦おうとするもの、適応しようとするもの様々です。この5人の他に冒頭で自殺するカルロスの弟アンヘルがいますが、彼は労働組合のリーダーとして戦い続けた結果、鉄道マンたちを救う道を見つけることができず、ついにあきらめて自らの命を絶っています。
主人公達も、アティリオやダニエルのように再就職先を見つけたとしても、鉄道マンとして持ち続けていた本当に大切なものを取り戻せてはいません。そして、状況の差こそあれ、彼らはアンヘル同様にあきらめつつあります。
唯一それを取り戻そうとしていたのはブラウリオ。自殺したアンヘルの息子アベルは、父の自殺に納得することができず、考え続けた挙句にブラウリオを訪れます。しかし、ブラウリオはアベルと会話したあと、列車の修理工場で心筋梗塞に襲われ、一人きりで死んでしまいます。
愛する父が闘いに敗れて自殺し、最後まで闘い続けたブラウリオも死んだとき、彼らの果たせなかった思いは、アベルに受け継がれたように見えます。残った大人たちが自らの未来を選択しようという勇気を失くしていくときに、アベルをはじめとする三人の少年少女たちは雨の中を走ります。
ラストは、感動のシーンでした。「運命は変えられるのか?」というテーマに対する明確な答え。
列車は、私たちのもの
勇気は、私たちのもの
選択は、私たちのもの
誇りは、私たちのもの
人生は、私たちのもの
未来は、私たちのもの
★★★★★
<スタッフ&キャスト>
監督:ニコラス・トゥオッツォ
製作:マルコス・ネグリ/パブロ・ラット
脚本:マルコス・ネグリ/ニコラス・トゥオッツォ
撮影:パブロ・デレーチョ
音楽:セバスティアン・エスコフェット
出演:ダリオ・グランディネッティ/メルセデス・モラーン
ウリセス・ドゥモント/パブロ・ラゴ
バンド・ビリャミル/オスカル・アレグレ
バレンティナ・バッシ/ルクレシア・カペーリョ
<関連サイト>
オフィシャル・サイト
ラテン!ラテン!ラテン!←本作を配給されたvagabundaさんのブログ
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TBご迷惑おかけします。こっちからも一回ではいらなっかんですよ。相性悪いですね。。。
この映画、わが身につまされながら観ると魅力三倍増ですよね・笑。カルロスの言動には結構深いものがあるなと思いました。
こんばんは。コメントとTBありがとうございました。実はこちらからもTBを送らせていただいたのですが,システムエラーなのか?反映されないようで・・
FROSTさんの記事を読ませていただいて,映画のシーンが,まるで昨日観たかのように甦ってきました。私も年齢的・環境的に身につまされるところがたくさんありました。カルロスになってしまうかもしれない・・ という恐怖がヒシヒシ(笑)
これが個人の方の配給だというのは驚きです。私が観たときは誰も知らない作品でしたが,それから話題を呼んだようで,私が観た館では1ヶ月以上にわたって延長公開されているようです。




