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#0014『市民ケーン』オーソン・ウェルズ監督 1941年アメリカ

Orson Welles

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監督・製作: オーソン・ウェルズ
脚本: ハーマン・J・マンキウィッツ/オーソン・ウェルズ
撮影: グレッグ・トーランド
編集: ロバート・ワイズ
音楽: バーナード・ハーマン
出演: オーソン・ウェルズ/ジョセフ・コットン/ドロシー・カミング
    エヴェレット・スローン/アグネス・ムーアヘッド

<作品関連情報>
    ⇒市民ケーン(1941) - goo 映画
    ⇒市民ケーン@映画生活
    ⇒IMDb(英語)

前回1920年代ハリウッドで起きた怪事件を描いた
『ブロンドと柩の謎』の感想をアップしましたが、その主役W.R.ハーストをモデルにした『市民ケーン』に関して、”オールド・ムービー・パラダイス!”から記事を転載しました。

米国を代表する新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが”バラのつぼみ”というなぞの言葉を残して死亡する。彼の伝記フィルムを編集する記者トンプソンは、今際の言葉”バラのつぼみ”のなぞを求めて、ケーンゆかりの人たちを尋ねる。後見人サッチャー(故人の日記)、忠実な元マネジャーのバーンスタイン、後に犬猿の仲となった昔日の親友リーランド、晩年の執事レイモンド、そして元愛人のスーザン。5人が語るケーンの真実とは、この世のすべてを手に入れたように見えて実は何一つ大切なものを守ることが出来なかった孤独な帝王の姿だった。そして、ラストシーンで明かされる”バラのつぼみ”の真実とは・・・。にほんブログ村 映画ブログへ

よく言われる”パンフォーカス”の絶技や光と影の美しさ、激しい仰角のアプローチなどなど技術的秀逸の極み。すでにこの映画を見た事のある人にとってはいまさらヨタ解説を聞く必要もないでしょう。未見の人はとにかく一度ご覧あれ。”一見の価値あり”とその一言のみ申しあげるにとどめさせていただきます。

今回注目したのは映画本体のことではなく、モデルとなった実在の悪名高き新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト。前回感想をアップした『ブロンドと柩の謎』では、エドワード・ハーマンが演じていました。

米国人で知らぬものはないといわれる新聞王ハーストは1863年の生まれ。映画でも「借金のカタに安く買い取った鉱山」とあるように、父親が安値で買った鉱山から4億ドルに上る銀が採れたため一夜にして大金持ちになりました。映画での父親は取るに足りない小物のように描かれていますが、実際はかなりの大物でカリフォルニアの上院議員にもなった人物でした。

当時の4億ドルといえば、単純な円換算で約1500億円。当時の貨幣価値がどのくらいか良く知りませんが、かなり控えめに1000分の一くらいとしても150兆円・・・。ちなみに現在世界一の金持ちは言わずと知れたマイクロソフトのビル・ゲイツで、その資産額は約500億ドルといいますから、ざっと6兆円弱。とにかく想像を絶する超ド級の金持ちだったことはまちがいありません。にほんブログ村 映画ブログへ

1887年24歳の時に、父がこれまた借金のカタに取り上げた新聞社”サンフランシスコ・エグザミナー”の経営を引き継いぎます。サンフランシスコ・エグザミナー誌には「悪魔の辞典」のアンブローズ・ピアスやマーク・トェイン、「野生の呼び声」のジャック・ロンドンなどが執筆陣に加わっていました。映画に登場した”クロニクル”から引き抜いた「最高の執筆陣」のモデルになっているかもしれませんね。ともあれ、これを皮切りに全米のメディアを買いあさり、42の日刊紙と13の雑誌8つの放送局を持つにいたって、ハーストはアメリカの世論を左右する存在となりました

中でも、1895年32歳でニューヨークの「ニューヨーク・モーニング・ジャーナル」誌を買収したときには、ライバルの「ニューヨーク・ワールド」誌との熾烈な発行部数争いを展開。ニューヨーク・ワールド誌のオーナーは、後にピューリッツァ賞を創設したジョーゼフ・ピューリッツァ(正真正銘のメディア王ピューリッツァもこのときにはかなりあくどい記事を載せたようです)。ハーストはワールド誌を出し抜くために、憶測記事などは日常茶飯事、完全な記事捏造もあたりまえの煽情的な報道(イエロー・ジャーナリズム)を繰り返し、米西戦争の勃発(映画でも「ケーンは国を戦争に導いた」言われている)やマッキンリー大統領暗殺などの原因をつくったといわれています。

こうして、全米で泣く子も黙るイエロー・ジャーナリズムの魔王にのし上がったハーストは、彼に対するすべての攻撃を金とメディアの力でねじ伏せて天下無敵。その絶頂期、54歳のときにジークフリート・フォーリーズの一員マリオン・デイヴィスと恋に落ちます。映画でケーンの死の原因となった愛人スーザンのモデルはこのマリオン・デイヴィスでした。ケーンは”自分がばか者に見られるわけには行かない”という理由で、才能のないスーザンを強引にオペラの舞台に立たせます。観客や評論家に嘲笑されながら歌い続けねばならないスーザンは思い余って睡眠薬自殺を図りますが未遂。ベッドでケーンと話す彼女の表情はちょっと怖くなるほどのすさまじさでした。にほんブログ村 映画ブログへ

『ブロンドと柩の謎』の感想でも書きましたが、実際のマリオン・デイヴィスはオペラ歌手ではなく。映画女優として1917年(ハーストがマリオンに一目ぼれした年)から37年までの20年の間に45本の映画に主演します。彼女の為だけに作られた映画会社「コスモポリタン・プロダクション」に、キング・ヴィダーやラオール・ウォルシュなどの著名な監督も招いて次々と作品を制作し、全米のハースト配下のマスコミを使ってマリオンを絶賛します。しかし、45本の主演作は見事にすべて赤字。文献を見る限り、マリオンが自殺を図ることはもちろんノイローゼにすらなった気配はありませんので、彼女はスーザンをはるかに上回るしたたかな女であったようです。

市民ケーン」の脚本を書いたマンキウィッツはマリオン・デイヴィスと知り合いであったらしく、ハーストには極秘で製作されていた「市民ケーン」はこのルートからハーストの耳に入ることになります。ちなみに、ケーンが残したなぞの言葉”バラのつぼみ”は、ハーストが飼っていた犬の名前だという説が一般的ですが、一説にはかわいいマリオンの”なに”をハーストが愛を込めて「バラのつぼみ」と呼んでいたといわれています。もしそれが本当なら、大々的に「バラのつぼみ」がフィーチャーされている「市民ケーン」にハーストは腰を抜かすほど驚いたと思われます。

「市民ケーン」が製作された1941年当時は、大恐慌を経てハーストの力も衰えていた時期ではあるものの、当時若干25歳だったウェルズが面と向かってハーストを題材にした映画を撮ったことには驚かされます。子供のころから法螺とはったりでのし上がってきたウェルズが自身の創設による「マーキュリー劇団」を世に知らしめるための乾坤一擲の大勝負だったのでしょうか。にほんブログ村 映画ブログへ

案の定「市民ケーン」はハースト帝国から大々的な攻撃を受けます。しかし、驚くべきことにウェルズは、ハーストの剣幕に腰の引けた製作会社RKOを訴訟までちらつかせて動かし、ついに上映までこぎつけます。ケーンとスーザンの描写が実際のハースト&マリオンと比べるとずいぶん人間的で悩める部分が強調されていると感じたのですが、これも最終的にハーストに上映を承知(黙認?)させるためのウェルズの計算であったのではないかなどと思ったりしてみます。

こうして上映された「市民ケーン」ですが、ハーストからの攻撃によって受けた傷は深く、結果は赤字。ウェルズもこの後映画制作に関する十分な影響力を発揮することはできず、どちらかというとアクの強さとトリッキーな行動が特徴の一種のイロ物として扱われるようになりました。

「市民ケーン」の映画作品としてのすばらしさが認識されるのは1951年のハーストの死後から。フランスにおける映画再評価の動きを待たなければなりませんでした。

ちなみに、ハーストとマリオンのスキャンダルにはまだまだ面白い話がある(『ブロンドと柩の謎』記事参照)のですが、興味のある方はケネス・アンガーというアングラ監督が書いた「ハリウッド・バビロン」という本をどうぞ。古本でしか買えませんが、古書は結構出回っているようです。★★★★★

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